もの食う人びと

先日、作文教室で紹介できる良い書き出しの例がないかしら、
とまた本棚をごそごそやっているときに見つけました。
竹村が最も気に入っている本のひとつなのですが、
辺見庸さんの「もの食う人びと」。
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辺見庸さんが世界中を旅する中で、出会った人々の「もの食う」姿
を簡潔かつ圧倒的に力強い描写で書ききった本です。

そんな質量感ずっしりの本でありながら、もともと雑誌連載であったため
か、今回もう一度読んでみると作文のお手本ともいえそうな
すばらしい書き出しの数々。授業中にも紹介したのですが、
せっかくなのでいくつかここにも並べてみます。

「いまでも、人魚を食っている人びとがいる」

「三日月が鎌のように青光りしながら追いかけてきた。」

「さっきから、着飾った婦人と何度もすれちがっているみたいだ。
気持ちが妙に浮きたつ。でも、誰もいない。」

良い書き出しが多すぎて、いちいち並べていくときりがないので、
とりあえずぱらぱらページをめくって目に付いたものをみっつほど。
一文読んだだけで、ぐっと意識と興味を持っていかれます。

と、なんだか書き出しの話のようになってしまいましたが、もちろん本当に
すばらしいのは、この後に続く本文です。そこで描かれる
一ページ読み進むたびにノックアウトされそうな強烈な世界。
押しつぶされそうな密度。純粋で力強い感情、それに感覚。

地球ってどんな世界なんだろう、ということに興味を抱き始めた
ばかりの小中学生から、
最近無感覚って感覚が身近に感じられるなあ、という大人まで幅広い人びとに
おすすめしたい作品です。