今週は、早稲田中入試から理科分野の一問(抜粋)です。
植物の 体の表面から水が蒸発するしくみを調べる実験をしました。下図のように目もりをつけた試験管に水を入れ,これに新しいツバキの枝をさしたものを A~D 4個用意し,風通しのよい日かげにおいた。下の表のように条件を変え,数日後に水面のさがった量をしらべたところ表の結果をえた。これをもとにして, (1)~(5)の問いに答えなさい。
(ただし、ワセリンは水や空気を通さない)
(1)葉の表側・葉の裏側・茎の表面から蒸発した水の量の 目もり数はそれぞれいくつですか。
(2)葉の表側にワセリンをぬったとすると,水面がさがった目もり数はいくつになりますか。
(早稲田中 改)
・親切にも「ワセリンは水や空気を通さない」と注意書きが問題文中にあります。つまり、ワセリンを塗った箇 所からは、蒸散(植物が水分を水蒸気として空気中に放出すること)が行われないということです。
・なぜDでも水面が減っているのでしょうか。
(1)葉の表側 6 / 葉の裏側 58 / 茎の表面 3
(2)62
暗記学習ではなく、考えて問題を解くことができる生徒の思考プロセスに沿って解説します。この問題の最初の 鍵は、水面からの蒸発を捉えられるかどうかです。
「表から、葉の表・葉の裏・茎 から試験管の水が外に出されているんだな」
↓
「あれ、まてよ、D の試験管の水も減っている。ということは、葉の表裏・茎以外からも水が減る原因があるのだ。」
↓
「水面からの蒸発だろう(ここでは、水面から蒸発ということに気付かなくても、葉の表裏・茎以外からも水減らす要因があるということに気付 けばいいのです)」
このように、論理的に実験において影響をあたえる要因を考えることがスタートです。
D の試験管から
水面からの蒸発=1 (目盛り)
C の試験管から
茎からの蒸散 + 水面からの蒸発 =4 (目盛り)
茎からの蒸散 + 1 (目盛り) =4 (目 盛り)
茎からの蒸散 =3 (目盛り)
B の試験管から
葉の表からの蒸散 + 茎からの蒸散 + 水面からの蒸発 =10 (目盛り)
葉の表からの蒸散 + 3 (目盛り) + 1 (目盛り) =10 (目盛り)
葉の表からの蒸散 = 6 (目盛り)
A の試験管から
葉の裏からの蒸散+ 葉の表からの蒸散+茎からの蒸散+水面からの蒸発 =68 (目盛り)
葉の裏からの蒸散 + 6 (目盛り) + 3 (目盛り) + 1 (目盛り) =68 (目 盛り)
葉の裏からの蒸散 =58 (目盛り)
下のような表を即座につくってもいいでしょう。
(2) 葉の裏からの蒸散 と 茎の表面からの蒸散 と 水面からの蒸発 の3つをたすと
58+3+1 で62
こういった、条件を変えて、その差違(他と異なるところ)から特定したい情報を導く実験を『対照実験』といいます。
たとえば、今 りんご の重さを特定したいとします。しかし、りんごの重さを直接測ってはいけないというルールがあるとします。
また、今、みかんの重さと、 かごの重さと、 みかんとりんごをかごに入れた時の重さは分かっているとします。 この場合、
りんごの重さ= みかんとりんごをかごに入れた重さ - かごの重さ -みかんの重さ
で求めることが可能です。
このように対照実験をもちいると、直接測定不能なデータを得ることができわけです。
この対照実験はきわめて論理を要し、また科学の世界では基本中の基本とされる考え方です。なので、高校・中学入試は頻出となっています。
上位校では、対照実験の結果からの考察だけでなく、「正しく対照実験を行うにはどういった設定で、何と何を比べればいいのか」を問われることもありま す。
また、この問題も国語読解力によっ て大 きく差が開く問題です。問題文から、「どんな実験をしているのか」を把握できない生徒が多数でした。実験操作になれることも大事ですが、そ れ以上に問題文に書いてあることを、自分の言葉に翻訳して理解する、また図示するという能力が必要となります。
~今回の問題から導かれる出題校からのメッセージ~
・基本的かつ重 要な方法論を理解する ~実験の本質を俯瞰(ふかん)してほしい~
解説にも書きましたが、今回の実験は対照実験という有名な実験方法論です。このワセリンの問題のほかにも、唾液とデンプンの問題、光合成の問題、ソラマ メの発芽の問題等として入試問題には頻出です。さらに言えば上位校では対照実験の状況設定を行う能力が最も重要なのです。つまり、「あと、どの実験をすれ ば欲しい情報が得られるか」を思考する能力です。「差違をつかって欲しいデータを導く」という思考です。
「ほしい情報をどうやったら手に入れることができるのか」を試行錯誤し、最短の方法でそれを手に入れ、整理し考察するという能力は入試に限らず広く社会で求められています。もちろん、そういった社会で多分に求められる能力を備えた生徒を、中学が欲しがるのは至極当たり前ではないでしょうか。
この問題を通して、
「へー、葉の裏からの蒸散が一番おおいんだ。おどろき。」
と思うのも大事ですが、
それ以上に、
「へー、なるほど、こういう実験をすれば 分からないデータを手に入れることができるんだー。おどろき。」と考えて欲しいものです。
・図示するチカラ、整理するチカラ~手を動かしてください~
今回の問題は、問題文と提示された表をにらめっこしていたのでは回答にはたどり着かないはずです。解説で書いたような表を即座に自分でつくることができる か、もしくは、解説に書いたように、蒸発部分を特定する「言葉の式」を組み立てることができるか、が鍵になるのです。
そういった作業をする間に「あ、水面からも蒸発するんだ!」と気付くわけです。基礎知識など要りません。試行錯誤をきちんとするか、試行錯誤の間に 「ん??」と考えることができるかが求められるているのです。
ロジムでも、問題とひたすらにらめっこしながらうんぬんうなっている生徒が時々います。そして「表にしてごらん」「問題文を箇条書きにしてごらん」と言い うと、瞬時に解けてしまうことが大半です。とにかく手を動かすことを怠けないで下さい。
「最も簡単で最も効果 のある学習法は問題文を箇条書きに直す習慣をつけること」と言われるのも、あながち大げさではないのです。むしろ、その通りだと思います。