今週は武蔵中学理科入試より1問です。
ある 干潟で,ある晴れた日に,「海水面の高さ」と「貝を食べに集まる鳥の数」を調べたところ,下のグラフ1とグラフ2のようになりました。
(1)干潮のとき,貝を食べに集まる鳥が少ないのはなぜだと思いますか。最もふさわしい理由を次の(ア)~(エ)の中から1つ選んで,記号を○で囲みなき い。
(ア) 鳥を集う動物がたくさんあらわれるから
(イ) ほとんどの貝が沖の方に行ってしまうから
(ウ) 貝がすっかり砂の中にもぐってしまうから
(エ) 貝が海水におおわれてしまい,鳥が見つけにくいから
(2)
① 鳥が貝を食べにたくさん集まるのは,海水面の高さがどのようなときですか。
② ①で答えた海水面の高さのときに.鳥がたくさん集まるのはなぜだと思いますか。 君の考えを書きなさい。
(武蔵中)
海水面が低いときは、エサがたくさんとれるため、鳥が多く干潟に下りてくるはずだ という短絡的な思考にと らわれてしまうとなかなか前に進みません。自分の常識ではなく、グラフを事実として思考を組み立てる能力が必要です。
(1) (ウ)
(2)
①満潮と干潮の間の範囲で、海水面が浅いとき
②鳥にとってエサとなるカニ・貝殻等が干潟の表面近くに上がってくるため。
(1)
(2)
①
思考の流れとしては、
水があふれているときは、鳥はもぐってエサをとることは難しいだろうから、水がなくなったときに鳥はエサを求めて集まるはずだ。 → いや、まてよ、グラ フを良く見ると水が最も干いたとき、集まる鳥の数は最大ではない・・・ → ??? → なんでだ???
こう考えると、
(ア)→鳥を襲う動物の登場を類推できる情報がない。
(イ)→貝が水深のある場所を求めて移動するとしたら、貝は最初から深い海にいればいいはずです。
(エ)→海水が干上がったときのことが問題になっています
はそれぞれ正解にはなりません。
貝は、海水が干上がると(≒水深が浅くなると)地表面近くにでてくるのですが、海水が干上ってしまうと、逆に砂の中にもぐりこんでしまい、鳥にとっては かえって見つけにくくなるということがグラフ・問題から類推できます。
(3)鳥が集まるのは、もちろんエサをとるためです。それを上手に説明できますか?という問題です。
~今回の問題から導かれる出題校からのメッセージ~
・与えられた資料が事実です。あなたの常識は事実ではありません
・仮説をつくり、撤回し、また思考を組み立てる。この作業を面倒と思ってほしくない
与えられた前提(本問の場合はグラフ)から考察し、未知の結論に至る。多くの学問の基本であり、中学入試、とりわけ上位校と言われる学校で多く問われる能 力です。
ここで学校側が確認したいのが、
「あなたの主観ではなく、与えられた前提を事実として思考を組み立てられますか」
ということ。
ハイレベルな問題では、たいてい主観・常識をもって臨むとどこかで「あれ?」という箇所に当たります。
そこで、常識(多くは独断)を捨て、白紙に帰り、改めて与えられた条件から思考を組み立てることが必要となります。
本問でいえば、まず「貝は水深が浅ければ浅いほど表面にでてくるんだろう」という常識・最初の仮説を、グラフを見ていかにすばやく修正できるかなのです。
(仮説の取捨選択をすばやく行い、トライ&エラーの回数を増やすという重要な能力については、
ロジム授業、または今後の「今週の1問」で扱います。)
常識やヒントを元に仮説を作る。そして、その仮説に矛盾が生じたらすばやく撤回し、あたらしく思考を構築する。
受験勉強にとどまらず、「考える」という作業にとって必ず必要なこの能力を武蔵中では
受験生に求めているのです。