今週は麻布中理科より1問です。
生き物の体は,脳もふくめてたくさんの正常なたんぱく質でつくられています。ウシの海綿状脳症(狂牛病)は,異常なたんぱく質が体の中に入り,それが病原体となって起きます。この異常なたんぱく質が脳に入ると,脳が必要としている正常なたんぱく質が足りなくなって,脳が海綿状(スポンジ状)になってしまうのです。
ヒトでも,狂牛病の病原体と同じような異常なたんぱく質が体に入ることにより,脳がスポンジ状になる病気が知られています。その異常なたんぱく質Xはヒ トの体に入ると,正常なたんぱく質AをXに変える働きをします(図1)。XはAを変化させますが,自分自身は変化せずxのままです。また,このXがヒトの 体の中にまったく無いときAはxになりません。
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問1 なぜ,このXが体の外から少量でも入ると,重大な病気になってしまうのですか。図1から考えて説明しなさい。
問2 もし,このXがAをXに変化させるときに,自分はYという別のたんぱく質に変化してしまうとすると,XとYの量はどうなりますか。下のア~カの中か ら,正しいもの2つを選びなさい。
ア.Xは増えていく イ.Xは変わらない ウ.Xは減っていく
エ.Yは増えていく オ.Yは変わらない カ.Yは減っていく
上のように,ヒトの体の中でつくられたたんぱく質が,それ自身をつくることに関係していることはよくあります。体に必要なたんぱく質Cはそのようなたん ぱく質で,たんぱく質Bからつくられます。そしてこのCは,BからCへの変化をおさえる働きをします(図2)。またBはいつもつくられていて,Cはゆるや かに分解されています。
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間3 つぎの(1),(2)の場合,BからCがつくられる量はどうなりますか。図2を参考にして答えなさい。
(1) 何らかの原因でCの量が増えたとき
(2) 何らかの原因でCの量が減ったとき
問4 ヒトの体を健康に保つために必要なたんぱく質の多くは,図1のXをつくるような経路ではなく,図2のCをつくるような経路でつくられます。そうなっ ている利点について図1,図2を比べて説明しなさい。
たんぱく質Aが仮に、10個だけ存在し、そこにたんぱく質Xが1個投入されると。。。。 とシミュレーションしてみてください。
問1
Xの作用により、AはXとなる。XはXのままであることから、時間がたつと正常なたんぱく質AはすべてXとなってしまうから。
問2
エ, イ
問3
(1)減る (2)増える
問4
図1の経路だと特定のたんぱく質が極端に増えたり、減ったりするが、図2の経路だと、特定のたんぱく質が増えたり減ったりしても、それを抑える方向の働き が生じ、たんぱく質の量が一定に保たれるという利点がある。
問 1
仮に正常なたんぱく質Aが10個あるとします。そこに、1つの異常たんぱく質Xが混じると、1個の正常たんぱく質Aが1個のXとなります。つまり、Aが9 個、Xが2個。つぎには、この2個のXの働きで、A2個がXに変化するので、Aは7個、Xは4個となります。この動作を繰り返すとAはなくなってしまいま す。
10A + X → 9A + 2X → 7A + 4X → 3A + 8X → 0A + 11X
問2
・AはXになる
・もとからあったXはYになる
以上から、全体としては AがYに変わる 変化だと考えることができる。
つまり、Xの量は不変、Yの量は増える。
問3
「Bは放っておくとCに変化し、つくられたCは今度は自分が作られるのを邪魔する」とイメージします。
Cが増えると、B→C の変化は邪魔されます。
Cが減ると、B→Cの変化は邪魔者が少なくなり、B→Cの変化量は増えます。
問4
問3から考えます。
Cが増えると、BからCが作られる変化はおさえられ、結果、Cはそれ以上なかなかふえません。問題文にあるように、Cがゆるやかに分解されると、Cは減る ことになり、BからCが作られる変化は促進され、結果Cは増えます。そしてCが増えると・・・・
と増えては減り、減っては増えるというプロセスを延々と繰り返すことになります。
これにより存在するたんぱく質の量が一定に保たれます。
とある最適な量のたんぱく質を保つという人間のメカニズムです。
~今回の問題から導かれる出題校からのメッセージ~
・いくつかの結論を重ねて、求められる結論に到達する持久力が必要
まず気付いてほしいのが、本問は生物分野の知識は何一つ必要とされてはいない点です。
題意を噛み砕いて説明すれば、小学校低学年の生徒でも回答可能です。
純粋に、「AならばB」「Aだ。ということはBだ。」という思考を積み重ねることで回答する、
論理思考力を計る問題です。
結局この問題で必要とされる能力・技術とはなんなのでしょうか。
それは、公式やパターン学習を完全に捨てた、結論を積み上げる持久力です。
簡単に言えば、バテずに「ってことは」を積み重ねる力です。
一つの結論が出た後に、その結論をつかって新たな結論に向かう。そしてさらに、その次の結論に。
大人にとっては普段から慣れたこの能力・スキルですが、小学生にとっては我々の想像以上に
困難な作業となることがあります。特に、積み重ねるべき結論の数に比例して音を上げる生徒は
増えるのです。
論理思考力と言われるものは、往々にして脳の「結論積み上げ持久力」だと言い換え可能です。
普段から、安易に答えを確認しようとせずに、複数のヒントから答えにたどり着くという、「積み重ね」
を訓練する環境を作ることが必要です。
分からなかった問題に対して、答えや解説を提示するのではなく、
ヒントを徐々に与え答えまで導くような学習環境づくりこそ、保護者・先生のやるべきことだと思います。